対象:社員や委託先が関わる企業・組織で、セキュリティの「最低限」をどこに置くべきか決めたい人。個人開発・小規模運営の方は 個人開発のセキュリティ最低限チェックリスト をどうぞ。本記事は、2026年に公表された国内の事故について各組織の公式発表にもとづいて当サイトが分析してきた内容を、組織の対策として逆算し直したものです。攻撃手順は扱いません。
事故が示した6つの穴
以下はいずれも、当サイトが各組織の公式発表にもとづいて解説してきた事案です。詳細はリンク先の記事にあります。
| 公表された事実 | 見つかった問題 | 組織の最低限 |
|---|---|---|
| デジタル庁:VPN機器の脆弱性から侵入。会見では既知の脆弱性に順にパッチを当てている間だったと説明(解説) | 外から届く機器の更新が「順番待ち」 | ① 入口の機器を期限つきで塞ぐ |
| デジタル庁:保守運用担当者のアカウントによるサーバ上の大量のファイルへのアクセスを検知 | 自社の社員ではないアカウントの権限と監視 | ② 保守・委託・退職者のアカウントを狭く |
| アフラック:攻撃が「通常の利用時と同様」の形で直ちに検知できず、短時間の大量照会を監視・制御する機能が不足(解説) | 1件ずつは正しいアクセスの「量」 | ③ 量と時間を見張る |
| さくらインターネット:販売管理システムへの不正アクセスは2023年4月〜2026年3月。再発防止策にログの取得範囲と保管期間の見直し(解説) | 気づいたときに遡れない | ④ ログを遡れる期間残す |
| Gyazo:流出したメタデータの中心は主に2019年1月以前のもの(解説) | 必要のなくなったデータを持ち続けた | ⑤ 要らないデータを持たない |
| Adobe Commerce:修正公開は8月11日、悪用確認(KEV入り)は44日後。公告は「優先度2・悪用は認識していない」のまま(解説) | 公開時の優先度を信じて後回し | ⑥ 優先度をKEVで付け直す |
この表の読み方:責める表ではなく、自社を点検する表
各組織は、入られた後に調査し、原因と再発防止策を公表しています。当サイトはそれを「他人事」ではなく「同じ問題が自社にないか」の点検表として使います。どの問題も、特別に不注意な組織だけが持つものではありません。KDDIの件のように、ベンダー自身も知らなかった脆弱性が入口になった事例もあり、入口を完璧に塞ぐ前提は成り立ちません。だからこそ②〜⑤の「入られた後に広げない」側が最低限に入ります。
組織の最低限6つ——それぞれの「最初の一歩」
① 外から届く機器を、期限つきで塞ぐ
VPN機器、リモートデスクトップの入口、ファイアウォールの管理画面——インターネットから直接届く機器の一覧を作り、機種・バージョン・更新の責任者を書きます。警察庁の統計では、ランサムウェアの感染経路(有効回答92件)のうち61件がVPN機器でした。
最初の一歩:一覧の各機器に「悪用が確認された脆弱性(KEV)が出たら何日以内に塞ぐか」を1つの数字で決める。「順番に当てる」運用のままだと、デジタル庁の事案と同じ構図になります。詳しくは VPN機器が最大の侵入口になっている。
② 保守・委託・退職者のアカウントを狭く、見える場所に置く
組織には、社員ではない人のアカウント——保守業者、委託先、すでに辞めた人——が必ずあります。これらは作業の都合で広い権限を持たされがちで、しかも誰の管理下にあるかが曖昧です。
最初の一歩:社員以外のアカウントを一覧にし、それぞれに社内の担当者と有効期限を付ける。使う時だけ有効にする、接続元を限る、フィッシングに強い二要素認証を必須にする、を順に進めます。退職時のアカウント停止は、入社手続きと同じ書類に載せてください。
③ 「量」と「時間」を見張る
アフラックの事案では、攻撃は通常の利用と同じ形をしていました。1件ずつは正しい照会なら、1件ずつの検査では止まりません。残る手がかりは1時間あたりに何件が出ていったかと、深夜・休日の動きです。
最初の一歩:顧客情報を最も多く返す機能1つに、1アカウントあたり1時間の上限と上限の8割で担当者に届く通知を付ける。ファイルサーバーやクラウドのストレージには、普段の何倍もの一括ダウンロードで通知が飛ぶ設定を入れる。設計の考え方は レート制限と濫用対策。
④ ログを「気づいたときに遡れる期間」残す
さくらインターネットの事案では、不正アクセスは約3年前から始まっていました。気づいた時点でその期間のログがなければ、何が起きたかも、何が起きなかったかも言えません。
最初の一歩:認証(成功と失敗)・データの照会と出力・管理操作の3種類だけは、少なくとも12か月残す(決済カード業界の基準 PCI DSS が求める期間を目安に)。容量が足りないなら、Webのアクセスログより先にこの3種類を守ります。
⑤ 要らなくなったデータを持たない
Gyazoの事案で流出したメタデータの中心は、何年も前にアップロードされた画像の付随情報でした。事故の被害の大きさは、その時点で持っていたデータの量で決まります。持っていないデータは漏れません。
最初の一歩:顧客データの種類ごとに「何のために、いつまで持つか」を1行で書く。書けないものは削除か匿名化の候補です。退会・解約した利用者の情報が残り続けていないかも確認してください(さくらインターネットの件では、解約済みでも退会しない限り会員情報が保持されていた)。
⑥ 優先度を、公開時の評価ではなくKEVで付け直す
Adobe Commerce の件では、修正公開時の公告は「優先度2・悪用は認識していない」で、44日後にCISAが悪用を確認しました。WordPress本体の件では、それが3日でした。
最初の一歩:自社で使っている製品について、KEVへの追加を通知で受け取る仕組みを1つ用意し、追加されたら「更新の順番」を付け直すルールにする。判断の手順は CVSS・EPSS・KEVで優先順位を決める。
入口を狭める
① 外から届く機器を期限つきで塞ぐ / ⑥ 優先度をKEVで付け直す
入られても届く範囲を狭める
② 保守・委託・退職者のアカウント / ⑤ 要らないデータを持たない
入られたことに気づき、遡れる
③ 量と時間を見張る / ④ ログを遡れる期間残す
個人と組織で、何が変わるのか
組織で増えるもの(事故はここから起きている)
- 自分のものではないアカウント(保守業者・委託先・退職者)
- 誰も存在を覚えていない機器(導入業者任せのVPN、昔の検証環境)
- 長年たまったデータ(解約済みの会員、古いメタデータ)
- 「誰かが見ているはず」の監視(ツールはあるが担当がいない)
組織の最低限でやること
- すべてに社内の担当者と期限を付ける
- 外から届く機器は一覧と更新期限で管理する
- データは持つ理由と期間を書き、書けないものは消す
- 通知は数字と宛先を決め、実際に届くかを試す
当サイトの視点:最低限とは「誰が・どの数字で・いつ気づくか」を決めること
事故の報告書を並べて気づくのは、多くの組織が対策の製品は持っていたことです。アフラックは不正アクセスを検知・遮断する機能を備え、設計時のレビューと侵入テストも実施していました。それでも止まらなかったのは、攻撃が想定していた形ではなかったからです。
だから当サイトは、組織の最低限を「何を導入したか」ではなく、「誰が・どの数字を超えたら・いつ気づくか」が決まっているかで測ることを勧めます。導入したツールの一覧は監査の役には立ちますが、事故が起きたときに担当者へ実際に知らせが届くのは、閾値と宛先が決まった通知だけです。通知の宛先が退職者のメールアドレスになっていないか、それを確かめるだけでも、最初の一歩になります。
6つの対策を続けるための体制
6つの最低限は、一度やって終わりではありません。担当者が異動し、機器が増え、データがたまります。続けるための前提として、最低でも次をそろえてください。
- 責任者を1人決める:6つそれぞれの一覧と期限を、誰が持っているか。
- 四半期に1回の棚卸し:機器・社員以外のアカウント・データの一覧を更新する(考え方は セキュリティの棚卸しチェックリスト)。
- 教育は「連絡の見分け方」から:事故の直後は、組織名を名乗る便乗の連絡が必ず増えます。社員と顧客の両方に、公式サイトから確かめる習慣を。
- 委託先との契約に、アカウントとログの扱いを書く:保守・委託の経路は、契約で決めておかないと誰も管理しません。
次に読む
- 2026年10月の政府・IPAの注意喚起:不正アクセスの注意喚起(国家サイバー統括室・IPA・JPCERT/CC)と今週やる点検
- 社内でのAI利用の管理:シャドーAIとは(承認されていないAIツールの業務利用と対策)
- 事故の比較:2026年の大型情報漏えい4件(KDDI・アフラック・デジタル庁・さくら)
- 入口:VPN機器が最大の侵入口になっている / CVSS・EPSS・KEVで優先順位を決める
- 入られた後:レート制限と濫用対策 / 事業者側が侵害されたときの利用者対応
- 個人・小規模版:個人開発のセキュリティ最低限チェックリスト
- 過去の事例:ベネッセ個人情報漏洩事件(委託先の内部不正) / KADOKAWA・ニコニコ ランサムウェア事件(分離不足で全社波及)