対象:個人開発・小規模運営で「バックアップはなんとなく取っているけど、これで本当に大丈夫?」と不安な人。ここでは攻撃手順は扱わず、壊れても確実に戻せるバックアップの作り方だけを扱います。
当サイトの視点:『クラウド同期』はバックアップではない
よくある思い込みが「OneDrive/Googleドライブに同期しているからバックアップ済み」です。違います。同期は『今の状態を複製する』仕組みなので、間違って消したファイルも、ランサムに暗号化されたファイルも、そのまま反対側へ複製されます。
バックアップに必要なのは、過去の状態に戻せることです。過去の版に戻せる世代管理と、後から書き換えられない不変コピーがそれにあたります。同期は便利ですが、それ単体では片方が壊れると両方壊れます。バックアップとは役割が別だと考えてください。
なぜ「取ってある」では足りないのか
バックアップが要るのは、データを失う原因がたくさんあって、しかも同時に来るからです。機器の故障、操作ミスの削除、盗難・災害、そしてランサムウェア。1つの守りでは、別方向の事故を取りこぼします。
特にランサムウェアは、バックアップそのものを探して暗号化しようとします。そのため、データと同じ場所に置いたバックアップは、事故のときに一緒に被害を受けます。これは脆弱性対応で言う「復元できる状態を保つ」(→ 脆弱性対応の実務)の、いちばん基本となる備えです。
基本の形:3-2-1(+オフライン/不変)
3 — コピーは3つ
オリジナル+複製2つ。1つ壊れても残り2つで戻せる。
2 — 2種類のメディア
例:PC内蔵+外付けSSD、あるいはNAS+クラウド。同じ箱に集めない。
1 — 1つはオフサイト
別の場所(クラウド/別拠点)。火事・盗難・水害で全滅させない。
+ 1つはオフライン/不変
常時接続しない、または上書き不能(immutable)。ランサムが暗号化できないコピーを必ず1つ。
作り方(順番に埋める)
まず『失うと困るもの』を棚卸し
3-2-1で配置する
少なくとも1つをオフライン/不変に
自動化する(手動は続かない)
復元テストを定期的に
ランサムウェアはバックアップも狙う
最近のランサムウェアは、本体のデータだけでなく、接続されたバックアップ先(NAS・外付け・マウント済みクラウド)も探して暗号化します。そのため、常に繋ぎっぱなしのバックアップだけだと、事故のとき一緒に暗号化されます。
最も効く対策は、オフライン(物理的に切り離す)か、不変(書き換え・削除を一定期間禁止する)のコピーを最低1つ持つこと。ここがあるかないかで、身代金を払うか払わないかが分かれます。
クラウド同期だけ
- 誤削除・暗号化もそのまま同期される
- 過去の版に戻せない
- 常時接続=ランサムに一緒に暗号化される
- 「戻せるか」を確かめていない
3-2-1+不変+復元テスト
- 世代管理で過去のきれいな版に戻せる
- オフライン/不変コピーがランサムから隔離
- 場所・メディアの冗長化で全滅しない
- 定期テストで確実に戻せると確認済み
環境別:標準の仕組みと、足すべきもの
ふだん使っている環境ごとに、標準で使える仕組み、過去の版に戻せるか、ランサムウェア対策として何を足すかをまとめます。
| 環境 | 標準の仕組み | 過去の版に戻せるか | 足すもの |
|---|---|---|---|
| Windows | ファイル履歴(外付けドライブかネットワーク上の場所に保存) | 戻せる(エクスプローラーの「以前のバージョンの復元」) | 取り終えたら保存先のドライブを外す。もう1つのコピーを別の場所へ |
| Windows(Windows バックアップ アプリ) | デスクトップやドキュメントなどのフォルダーを OneDrive に同期 | OneDrive 側の機能による | 中身は同期なので、ファイル履歴か外付けへのコピーを別に持つ |
| Mac | Time Machine | 戻せる(過去24時間は1時間ごと、過去1か月は1日ごと、それより前は1週間ごと) | 2台目のバックアップディスクを別の場所に置き、ときどき入れ替える |
| iPhone | iCloud バックアップ(電源とWi-Fiにつながり、画面がロックされているときに自動) | 端末を丸ごと戻すための仕組み | 写真や書類など大事なものは、PCや外付けにも残す |
| OneDrive | 同期 | Microsoft 365 加入者は「OneDrive の復元」で過去30日以内の時点に戻せる | 同期とは別に、オフラインのコピーを1つ |
| Google ドライブ | 同期 | Google 形式以外のファイルは「版を管理」で戻せる。古い版は30日経つか、新しい版が100個を超えると削除されることがある | 残したい版は「永久に保存」。オフラインのコピーも1つ |
| サーバー・VPS | バックアップツール(restic など)と別の保存先 | ツールのスナップショットで戻せる | 保存先を、本番サーバーからは消せない設定にする(S3 オブジェクトロックなど) |
| レンタルサーバー | 事業者の自動バックアップ | 事業者が決めた保持期間の中だけ | 事業者の外(手元やクラウド)にも定期的に持ち出す |
表のうち「足すもの」の列が、3-2-1の残りを埋める作業です。標準の仕組みだけで3-2-1とオフラインがそろう環境はほとんどありません。
自分の環境で確認する方法
「取れているつもり」をなくすために、次の順で確かめます。どれも自分の機器やアカウントの設定を見るだけの操作です。
最後にバックアップが成功した日時を見る
- Windows:コントロールパネルの「ファイル履歴」を開き、有効になっているか、保存先のドライブと最後にコピーした日時を確認します。
- Mac:「システム設定」→「一般」→「Time Machine」で最新のバックアップ日時を確認します。ターミナルでは
tmutil latestbackupで最新のバックアップ、tmutil destinationinfoで保存先が表示されます(環境によってはターミナルにフルディスクアクセスの許可が必要です)。 - iPhone:「設定」→自分の名前→「iCloud」→「iCloud バックアップ」で、最後にバックアップした日時が表示されます。
- サーバー:restic を使っているなら
restic snapshotsで、スナップショットの一覧と日時が出ます。
日時が何日も前で止まっていたら、それが一番急いで直すべき点です。
保存先がつながったままになっていないか見る
外付けドライブやNASが、ふだんからPCにつながり、ドライブとして見えたままになっていないかを確認します。サーバーでは、本番サーバーに置いた認証情報がバックアップの削除まで許していないかを、権限の設定で確認します。S3 なら、保存先のバケットでオブジェクトロックが有効かも見ておきます。
クラウドで過去の版に戻せるか見る
OneDrive は「設定」→「オプション」に「OneDrive の復元」があるか(Microsoft 365 加入者向け)。Google ドライブは、ファイルを右クリックして「版を管理」に古い版が並ぶかを確認します。どちらも保持期間があるので、それより前に戻す手段は別に必要です。
実際に1つ戻してみる(復元テスト)
大事なファイルを1つ選び、元の場所とは別の場所に戻して、開けるかを確かめます。Windows はフォルダーを右クリックして「以前のバージョンの復元」、Mac は Time Machine から戻せます。サーバーなら別のディレクトリに戻して中身を確認し、restic では restic check --read-data-subset=5% のように保存データの一部を実際に読み出して検査できます。データベースは、別のデータベースに戻して起動できるかまで見ます。
結果と、戻すのにかかった時間を記録する
日付、戻したもの、かかった時間を控えておきます。全部を戻すのに何時間かかるかの目安になり、次のテストで変化にも気づけます。
よくある間違いと直し方
- 外付けドライブをつなぎっぱなしにする:ランサムウェアからは、つながったドライブも暗号化の対象に見えます。取り終えたら外すか、2台を交互に使って1台は常に外しておきます。
- 同期をバックアップだと思う:Windows バックアップ アプリのフォルダーのバックアップも、中身は OneDrive への同期です。過去の版を持つバックアップを別に用意します。
- バックアップ先の管理画面に、本番と同じパスワードを使う:本番が乗っ取られると、バックアップも消されます。パスワードを分け、多要素認証をかけます。
- 失敗の通知を見ていない:止まっていても気づけません。失敗時に通知が来る設定にし、月に1回は最終日時を見ます。
- 戻すのに必要な情報がバックアップの中にしかない:暗号化のパスワードや復旧キーは、バックアップとは別の場所に保管します(→ パスワードマネージャーの選び方)。
- オフラインのコピーを一度作ったきりにする:戻せるのはそのコピーを作った時点までです。月に1回など、決まった間隔で更新します。
公開事例:残ったのは、切り離していた古いコピーだった
2021年10月にランサムウェア被害を受けたつるぎ町立半田病院の有識者会議調査報告書(2022年6月公表)には、バックアップについて次の記述があります。
- 暗号化が確認されたサーバーの一覧に、バックアップサーバーが含まれていた
- 一方、2018年までオフラインで保管していたバックアップデータは影響を受けず、復旧に使えた
- 通常診療の再開は2022年1月4日で、被害から約2か月かかった
つながっていたバックアップは本番と一緒に被害を受け、切り離していたコピーは残りました。ただし、残ったコピーは数年前の時点のものでした。オフラインのコピーは持つだけでなく、定期的に新しくしておくことで、戻せる時点が近くなります。
当サイトはどうしているか
当サイトは、データと文書を自動で・別の場所へ・複数世代取得し、さらに「作り直せるものは作り直せる設計」を併用しています。たとえば機械的に再生成できるデータ(取り込みフィードや索引)は、バックアップに頼らず再構築できる前提で持つ——これは「バックアップの負担を、そもそも減らす」考え方です。そのうえで、失うと取り返しのつかないもの(本文・設定)は冗長に保ち、復元できる状態を常に保つことを運用の前提にしています。
サポート切れ機器の入れ替え(→ Windows 10サポート終了の話)でも、安心して乗り換えられるのは、戻せるバックアップがあるからです。バックアップは、ほかの対策が破られたときだけの備えではなく、事故対応の前提条件だと考えてください。
次に読む
- 基本:セキュリティ最低限チェックリスト(Tier 3=検知・復元)
- 実務:脆弱性対応の実務(復元できる状態を保つ)
- 関連:Windows 10サポート終了のリスクと移行
- 保管:パスワード・秘密の安全な保管
- 事例:KADOKAWA・ニコニコ ランサムウェア事件(2024)(ランサムで数か月停止・事業継続(BCP)の教訓)
- 事例:大阪公立大学のランサムウェア被害(2026)(仮想化基盤の停止とバックアップの暗号化が報じられた事案)
- 事例:Rank Math PRO 3.0.123のマルウェア混入(2026)(「期間より前のバックアップから戻す」が推奨の復旧になった事案)
- 事業者側の事故:レンタルサーバーが不正アクセスされたとき、利用者は何をすべきか(事業者の中だけにバックアップを置かない理由)
出典
- CISA ほか「#StopRansomware Guide」(オフラインで暗号化したバックアップの保持と定期的な復元テスト): cisa.gov
- つるぎ町立半田病院「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」(2022年6月): handa-hospital.jp
- Microsoft サポート「ファイル履歴を使用したバックアップと復元」: support.microsoft.com
- Microsoft サポート「OneDrive でフォルダーをバックアップする」: support.microsoft.com
- Microsoft サポート「OneDrive を復元する」: support.microsoft.com
- Google ドライブ ヘルプ「ファイルの以前の版を確認する」: support.google.com
- Apple サポート「Time Machine を使って Mac をバックアップする」: support.apple.com
- Apple サポート「iCloud で iPhone をバックアップする方法」: support.apple.com
- AWS ドキュメント「S3 オブジェクトロックを使用したオブジェクトのロック」: docs.aws.amazon.com
- restic ドキュメント「Working with repositories」(snapshots / check): restic.readthedocs.io