対象:自社のサービスや社内システムの守りを考える立場の方と、報道で名前を見た事案の要点を正確に知りたい方。本記事は各組織の公式発表を一次情報として比較する解説で、攻撃手順は扱いません。
まず:自分に関係があるかの早見表
報道で名前を見た人が最初に知りたいのは「自分は対象か、何をすればいいか」です。ここだけ読んで離脱しても構いません。各組織が公表した対象範囲と、それに対して利用者側で今日できることを並べます。
- KDDI(ISP事業者向けメール基盤)
- 関係するのは:該当ISPのメールを使っていた人(案内は各ISPから)。今日やること:パスワードはISP側で強制変更が実施されました。同じパスワードを使っていた他サービスのパスワードを変えるのが本題です。総務省は約762万人分のメールボックスの内容が閲覧される可能性があったとしており、受信箱に残るパスワード通知や認証コードは無効とみなして再設定するのが安全です。
- アフラック生命保険
- 関係するのは:契約者と代理店。今日やること:口座情報が対象なのは約22万人。口座の取引明細を確認し、不審な点があれば金融機関と同社の窓口の両方へ。同社を名乗る連絡は、リンクや記載の電話番号を使わず公式サイトから確認します。
- デジタル庁(GSS)
- 関係するのは:各府省庁等の職員と、その業務に携わった委託先(一般の方の個人情報は含まれないと公表)。今日やること:氏名・メール・電話番号を使ったなりすましの連絡を警戒する(詳細は VPN機器の記事)。
- さくらインターネット
- 関係するのは:会員登録している人すべて。レンタルサーバーを使っていなくても対象になり得ます。今日やること:使い回しているパスワードを変える。契約時の初期パスワードをまだ使っているなら今日変更(手順は レンタルサーバー事業者が侵害されたときの記事)。
自社のサービスや社内システムを守る立場の方は、ここから先が本題です。4件の侵入口はまったく違うのに、再発防止策は同じ場所に収束しています。
4件を並べる(各組織の公式発表より)
| 組織(公表) | 対象(公表時点) | 侵入口(公表内容) | 発生から判明まで |
|---|---|---|---|
| KDDI(6月23日〜) | メールアドレス 12,231,954名、うちパスワード 7,616,173名の漏えいを確認 | システムに組み込んだ第三者製ソフトウェアの脆弱性(確認時点でベンダーも未認識) | 5月16日から発生 → 6月17日に確認(約1か月) |
| アフラック生命保険(6月30日〜) | お客様 約440万人(うち口座情報 約22万人)、代理店 約4万店 | 「オンライン相談」「よりそうネット」で、アクセスとデータ照会の手口に対する制御が不十分 | 6月10日に最初の漏えい → 6月25日に判明(15日) |
| デジタル庁(9月11日) | 職員等の個人情報 約24.6万件が漏えいした可能性 | VPN機器の脆弱性(大臣会見で既知と説明。同庁Q&AでCVSS「中」) | 発表文に開始時期の記載なし。報道では大量アクセスは5月下旬ごろから → 6月25日に検知 |
| さくらインターネット(8月17日〜) | 会員情報 1,360,563アカウントが対象となる可能性、レンタルサーバー 951アカウント | 非公表(模倣攻撃防止のため) | 販売管理システムは2023年4月〜2026年3月 → 2026年8月9日に別の異常で検知(約3年) |
件数を横に比べて「どこが一番ひどいか」を読まない
この表の数字は確定の度合いが揃っていません。KDDIとアフラックは漏えいを確認した人数、デジタル庁は漏えいした可能性、さくらインターネットは対象となる可能性がある総数です。システムの性質も、保存されていた情報の種類も違います。
件数の大小で順位をつけることに意味はなく、当サイトもそうしません。比べる価値があるのは、各組織が自分の事案から何を学んだと書いたか、つまり再発防止策のほうです。
各事案で公表された要点
- 何が
- KDDIが開発し、ISP事業者向けに提供するメール基盤(アカウント管理・送受信・Webメール・メール保存を一体で提供)への不正アクセス。KDDI自身のauメール等は別設備で影響なしと説明
- 原因
- 「本システムの一部として導入していた第三者製のソフトウェアの脆弱性を悪用されたことによるもの」。確認時点(6月17日)で「本ソフトウェアベンダーが認識していない脆弱性」だったとしています
- 件数
- 初報(6月23日)では「最大1,422万件」の可能性。7月6日の報告(7月21日訂正)で、漏えいが確認されたのはメールアドレス12,231,954名、うちパスワード7,616,173名
- 行政指導
- 総務省は2026年7月29日、本件について通信の秘密の保護に係る措置(指導)を実施。同省の報道資料は「約762万人のユーザーのメールボックスの内容が閲覧される可能性のある状況となっていることが判明しました」としています
- 対応
- ISP事業者と連携してパスワード変更を進め、利用頻度の低い利用者も含めてISP事業者による強制変更を実施。6月21日に外部通信を制御する全サーバーへのEDR導入を完了。今後はよりセキュリティ強度の高い通信規格への移行を進めるとしています
- 何が
- 代理店が非対面の保険設計・申込に使う「オンライン相談」と、契約者向けWebサービス「アフラック よりそうネット」への不正アクセス。同社は、それ以外のシステムで同種・類似の漏えいはないことを確認したとしています
- 原因(7月31日の調査結果)
- 「今回の攻撃で使われたアクセスとデータ照会の手口に対する制御が不十分であった」。検知・遮断の機能はあったが「アクセスの形式が通常の利用時と同様であったことから、不正アクセスとして直ちに検知することができませんでした」。さらに「短時間に大量のデータ照会があった場合に監視・制御する機能が不足していた」
- 事前の対策
- 設計時のセキュリティレビューとリリース前の侵入テストは実施していたが、「今回の攻撃で使われた手口に関するリスクを想定できていませんでした」
- 件数
- お客様約440万人(うち保険料振替口座情報を含む約22万人)、代理店約4万店。マイナンバー、クレジットカード情報、メールアドレスは含まれていないとしています
- 何が
- 各府省庁等の職員が共通で使う業務環境への不正アクセス。一般の方の個人情報は含まれていないことを確認したとしています
- 原因
- 「第三者がネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性を利用してシステムに侵入」。製品名・脆弱性の識別番号は非公表
- 続報(会見要旨)
- 同庁が公開した9月11日の会見要旨で、デジタル相は「脆弱性についての感知は既知のもので、我々としては理解をしていました」「緊急度が高いものではなく…深刻度評価…に応じた対応の中で進めていた」「順番にパッチを当てるような作業があるのですけれど、その間にハッキングをされた」と説明し、パッチは適用済みとしています。CVSS「中」は同庁のQ&A(9月12日更新)に記載があります。大量アクセスの開始時期(5月下旬ごろ)は報道によるもので、会見要旨・発表文・Q&Aのいずれにもありません
- 検知
- 6月25日、保守運用担当者のアカウントを利用したサーバ上の大量のファイルへのアクセスを検知。詳しくは VPN機器はランサムウェアの主な侵入口 で解説しています
- 何が
- 契約情報を管理する販売管理システムと、「さくらのレンタルサーバ」の一部環境への不正アクセス。両者の関連性を示す明確な根拠は確認されなかったとしています
- 期間
- 販売管理システムへの不正アクセスは「2023年4月以降、2026年3月までの間」。検知は2026年8月9日、レンタルサーバーのメンテナンス用サーバーの異常から
- 原因
- 侵入経路は模倣攻撃防止の観点から非公表。一部の初期パスワードがハッシュ化されていなかったことも公表。利用者向けの対応は レンタルサーバーが不正アクセスされたとき、利用者は何をすべきか にまとめています
4件に共通していた再発防止策:検知の強化
侵入口で比べると4件はばらばらです。しかし、各組織が自分で書いた再発防止策を並べると、同じ言葉が出てきます。
各社が挙げた「検知」の再発防止策
- KDDI:不正アクセス検知の強化のため、外部通信を制御する全サーバーへのEDR導入(6月21日に完了)
- アフラック:アプリケーションとセキュリティ機器における大量アクセスに対する監視と制御の強化
- さくらインターネット:早期検知を目的とした監視対象・検知機能の拡充、ログの取得範囲・保管期間・分析体制の見直し
デジタル庁は「検知が働いた」側
- 異常に気づいたきっかけは、保守運用担当者のアカウントによる大量のファイルへのアクセス
- 侵入は防げていないが、量の異常から範囲を確定し、アカウント停止と通信遮断に進めた
- 再発防止策は「脆弱性管理方法の見直し」「外部からの接続方法の改善」=侵入を防ぐ側
正規の利用
ログイン → 自分の契約を照会 → 数件を閲覧
正規の形をした攻撃
ログイン → 照会 → 閲覧(ここまで同じ形)
量
1人が数件か、数万件か
速さ
人の操作の速度か、機械の速度か
時間の長さ
遡れるだけのログが残っているか
自分の組織で、今日やること
データを返す機能に「量の上限」と通知を付ける
アフラックが挙げた原因のひとつは「短時間に大量のデータ照会があった場合に監視・制御する機能が不足していた」ことでした。顧客情報を返すAPIや画面に、1回あたり・1時間あたりに返せる件数の上限と、上限に近づいたら人に知らせる通知を付けます。正しいログインで入られた場合でも、数万件を短時間で持ち出す動きは、人の使い方と形が違います。何を・誰単位で・いくつまで数えるかの設計は レート制限と濫用対策 で詳しく扱っています。
測る場所は3層あります。
アプリ側:検索・一覧・エクスポートの処理で、アカウント単位に件数を数える(誰が何件見たかが分かるのはここだけです)。
前段:nginx の limit_req や CDN のレート制限ルールで、エンドポイント単位に秒・分あたりの上限を置く。
プラットフォーム:Google Workspace のアラートセンター、Microsoft 365 の監査ログとアラートポリシーに、大量ダウンロードやエクスポートを通知する条件がある(使える範囲は契約プランによります)。
最初の一歩は、いちばん多くの件数を返すエンドポイント1本に「1アカウントあたり1時間の上限」と「8割に達したら届く通知」を付けることです。全体設計を待つより、1本でも通知が届く状態のほうが先に効きます。
ログを「気づいたときに遡れる期間」だけ残す
さくらインターネットの事案では、販売管理システムへの不正アクセスが約3年前から始まっていました。気づいたときに、その期間のログが残っていなければ、何が起きたかも、何が起きなかったかも言えません。同社も再発防止策にログの取得範囲と保管期間の見直しを挙げています。容量の都合で数週間分しか残していないなら、少なくとも認証とデータ照会のログだけは長く残す、という切り分けが現実的です。
期間の目安:決済カード業界の基準(PCI DSS)は12か月の保管と、直近3か月を即座に参照できる状態を求めています。決済を扱わない組織でも、この数字は出発点として使えます。
残す種類は最低3つです。認証(成功と失敗の両方)・データの照会とエクスポート・管理操作。Webサーバーのアクセスログだけでは、誰が何件持ち出したかを後から言えません。
「未知の脆弱性は必ずある」前提で、入られた後に気づく
KDDIの件で悪用されたのは、確認時点でベンダー自身も認識していなかった脆弱性でした。当時は適用できる修正が存在しません。更新を完璧に回していても防げない侵入口がある以上、サーバー上の不審な動き・外部への通信に気づく仕組み(KDDIが全サーバーに導入した EDR はその一例)が残る防御策になります。
それでも侵入口になる機器の更新は続ける
検知が大事だという話は、侵入を防ぐ対策を軽くしてよいという意味ではありません。デジタル庁の事案はVPN機器の脆弱性が侵入口でした。既知の脆弱性を放置しない運用は、今もいちばん費用対効果が高い守りです。VPN機器については VPN機器はランサムウェアの主な侵入口、優先順位の付け方は CVSS・EPSS・KEVで優先順位を決める を参照してください。
当サイトの視点:侵入テストは「想定した手口」しか見つけない
アフラックの調査結果でいちばん重要な一文は、原因そのものより「システム設計時のセキュリティレビューやシステムリリース前の侵入テストを実施していましたが、今回の攻撃で使われた手口に関するリスクを想定できていませんでした」という部分だと当サイトは考えます。対策をやっていなかったのではなく、やっていたのに想定していない手口で攻撃されました。これはどの組織にも起こりうることです。
事前の検査は、検査する側が思いついた手口しか確かめられません。そのため残る防御策は、本番で「普段と違う量・速さ・時間帯」に気づく仕組みになります。4件のうち3社がそろって検知を再発防止策に挙げたのは、それぞれの事案でこの限界に直面したからだと読めます。
レビューとテストは侵入口を減らすため、検知は侵入後に気づくまでの時間を縮めるためのものです。役割が違うので、片方でもう片方の代わりにはなりません。
事案を問わず、個人がやること3つ
事故の件数より、自分に届く「便乗の連絡」のほうが現実の危険
①同じパスワードを使い回さない:KDDIの件ではパスワードの漏えいが確認されています。同じパスワードを他のサービスで使っていれば、そちらにもログインされます(パスワードマネージャーが現実的な対策です)。
②組織名を名乗る連絡のリンクや電話番号を使わない:デジタル庁とさくらインターネットは組織を装った連絡への注意を明記し、アフラックも不審な連絡を受けた場合は窓口へ連絡するよう求めています。確認は公式サイトに自分でアクセスして行います。
③口座情報が対象なら取引を確認する:アフラックは口座情報が漏えいした契約者について金融機関と連携するとしています。不審な取引があれば、金融機関と当該組織の窓口の両方に連絡してください。
出典(公開記録)
本記事の事実関係は、以下の各組織の公式発表にもとづきます。公表されていない製品名・侵入経路は推測していません。
- KDDI株式会社「ISP事業者向けメールシステムに対する不正アクセスの発生について」(2026年6月23日) — newsroom.kddi.com
- KDDI株式会社「ISP事業者向けメールシステムに対する不正アクセスについてのお詫びとご報告」(2026年7月6日、7月21日更新) — newsroom.kddi.com
- アフラック生命保険株式会社「当社システムに対する不正アクセスの発生および情報漏えいに関するお詫びとお知らせ(第二報)」(2026年7月13日) — aflac.co.jp
- アフラック生命保険株式会社「当社システムに対する不正アクセスの発生および情報漏えいに関する調査結果と再発防止策について」(2026年7月31日) — aflac.co.jp
- 総務省「KDDI株式会社に対する通信の秘密の保護に係る措置(指導)」(2026年7月29日) — soumu.go.jp
- デジタル庁「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」(2026年9月11日) — digital.go.jp
- デジタル庁「デジタル大臣記者会見(令和8年9月11日)」会見要旨 — digital.go.jp
- デジタル庁「「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」に関するQ&A」(2026年9月12日更新) — digital.go.jp
- 日経クロステック(2026年9月11日。脆弱性の深刻度・大量アクセスの開始時期は報道にもとづく) — xtech.nikkei.com
- さくらインターネット株式会社「当社システムへの不正アクセスに関する調査結果および再発防止策について(第三報)」(2026年9月10日) — sakura.ad.jp
更新履歴
2026-10-11:訂正。デジタル庁の件で、悪用された脆弱性がCVSS「中」だったことは報道だけでなく、同庁のQ&A(9月12日更新)に「中(CVSS値※Mediumレベル)」と記載されていました。報道扱いから同庁Q&Aへの帰属に改めました。大量アクセスの開始時期(5月下旬ごろ)は引き続き報道扱いです。
2026-09-19:デジタル庁の件を公開された会見要旨で一次確認し、「既知の脆弱性で、深刻度評価に応じて順にパッチ中に侵入された」を報道から会見要旨の引用に差し替え。CVSS「中」と5月下旬は引き続き報道扱い。さくらインターネットは第三報(9月10日)以降、新たな公表なし(9月19日確認)。
2026-09-12:2点を追記。①KDDIの件で総務省が2026年7月29日に通信の秘密の保護に係る措置(指導)を実施していたこと(約762万人のメールボックスの内容が閲覧される可能性)。②デジタル庁の件で、悪用された脆弱性が既知でCVSS「中」だったと報じられたこと(同庁の発表文には無いため報道として帰属)。さくらインターネットは9月10日の第三報以降、新たな公表はありません(公式FAQも9月10日更新のまま/2026年9月12日確認)。
2026-09-11:初版。4組織の公式発表にもとづく。
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