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VPN機器が最大の侵入口になっている——デジタル庁GSS事案から考えるリモートアクセスの守り方

デジタル庁は2026年9月11日、政府職員らが使う業務環境GSSにVPN機器の脆弱性を突いた不正アクセスがあり、約24.6万件の個人情報が漏えいした可能性を公表しました。警察庁統計でもランサムウェアの侵入経路の約3分の2はVPN機器。公表事実と、VPN・リモートアクセスを守る手順を整理します。

公開日 2026-09-11 更新日 2026-09-11 最終確認 2026-09-11 17分で読める

対象:VPNやリモートアクセスの機器を運用している組織の管理者と、デジタル庁から連絡を受ける可能性がある職員・委託先の方。本記事は公開情報(デジタル庁の公式発表・警察庁の統計・報道)にもとづく解説で、攻撃手順は扱いません。

何が起きたのか(デジタル庁の発表より)

デジタル庁は2026年9月11日、同庁が整備・運用する政府共通の業務環境「ガバメントソリューションサービス(GSS)」への不正アクセスにより、職員等の個人情報が漏えいした可能性があると公表しました。以下はすべて同庁の公式発表に記載された内容です。

  1. 2026年6月25日

    保守運用担当者のアカウントを利用して、サーバ上の大量のファイルへのアクセスが行われたことを検知し、調査を開始。
  2. 2026年7月9日

    調査の結果、第三者がネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性を利用してシステムに侵入していたことを確認。同日、当該アカウントを停止し、侵入された機器と外部との通信を遮断
  3. 2026年9月11日

    漏えいの可能性がある個人情報(約24.6万件)を公表。対象者を特定のうえ順次、個別に連絡するとし、専用の問い合わせ窓口を設置。
約24.6万件
漏えいした可能性がある個人情報の合計(確定した漏えい件数ではない)
約18.9万件
GSS利用機関の職員・その業務に携わった公務員等
約5.7万件
GSS利用機関の業務に携わった事業者・個人
0
現時点で確認されている悪用などの二次被害(同庁発表)
漏えいした可能性がある情報(デジタル庁の発表より)
対象者
GSSを利用する各府省庁等の職員と、その業務に携わった方々。同庁は「一般の方の個人情報は含まれていないことを確認」したとしています
主な項目
氏名 約23.6万件/メールアドレス 約23.1万件/電話番号 約9.4万件/住所 約0.1万件 など
含まれていないもの
マイナンバー、金融機関口座情報、年金番号等
侵入の経路
ネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性。製品名・脆弱性の識別番号(CVE)は公表されていません
検知のきっかけ
保守運用担当者のアカウントによる、サーバ上の大量のファイルへのアクセス
二次被害
「現時点において、本件に関連する個人情報の悪用等の二次被害は確認されていません」
再発防止策
「脆弱性管理方法の見直しや、外部からの接続方法の改善等」

読み方の注意:公表されていないことを埋めない

この事案で公表されていないのは、①VPN機器の製品名と、どの脆弱性か ②侵入がいつ始まったか ③保守運用担当者のアカウントがどのように使われるに至ったかの3点です。発表は「VPNの脆弱性を利用して侵入」「保守運用担当者のアカウントを利用して大量のファイルにアクセス」という2つの事実を並べていますが、その間をつなぐ経緯は書かれていません。SNSでは製品名を挙げる投稿も出回りますが、当サイトは一次情報で確認できない内容を記事にしません。確認できる事実だけで、防御側が学べることは十分にあります

なぜVPN機器がいちばん狙われるのか

これはデジタル庁だけの話ではありません。警察庁の統計では、国内のランサムウェア被害で侵入経路が判明した事案のうち、VPN機器が最大の入口であり続けています。

61 / 92件
令和7年(2025年)に侵入経路が判明した事案のうちVPN機器(約66%)
19件
同・リモートデスクトップ(約21%)
2件
同・不審なメールやその添付ファイル
293 / 485件
過去5年の累計でもVPN機器が最多(約60%)

「怪しいメールを開かない」教育が注目されがちですが、統計上の主戦場はインターネットに向けて置かれた機器のほうです。理由は構造にあります。

インターネットから誰でも到達できる

VPN機器の脆弱性を突かれる

内側では正規アカウントとして動く

広い権限で大量のファイルに届く

断つ①:更新の速さ

悪用確認済みの脆弱性は最優先

断つ②:権限の狭さ

保守アカウントに全部を読ませない

断つ③:大量アクセスの検知

デジタル庁はここで気づいた

VPN機器は「外から内へ」の一点に立つ。ここが破られると、内側での動きは正規の利用と見分けにくくなる。断てる場所は3つある。

VPN機器が狙われやすい理由

  • インターネットから常に到達できる場所に置かれている
  • 1台を越えれば組織の内側に入れる
  • 内側での動きは、正規の利用者と見分けにくい
  • 機器のOSは利用者から見えにくく、更新が後回しになりがち
  • 設置した業者と運用する担当が分かれ、更新の責任者が曖昧になりやすい

組織側が決められること

  • どの機器を、どのバージョンで持っているかの把握
  • 悪用が確認された脆弱性を何日以内に塞ぐかという期限
  • 内側に入った後に、1つのアカウントで何が読めるか
  • 普段と違う量・時間帯のアクセスに気づく仕組み
  • そもそもその機器を持ち続けるかという判断

VPN機器を運用している組織が、今日やること

1

VPN・リモートアクセス機器を棚卸しする

最初に必要なのは一覧です。機種・型番・ファームウェアのバージョン・設置場所・更新の責任者を、VPN機器だけでなくリモートデスクトップの入口やファイアウォールの管理画面も含めて書き出します。「導入した業者に任せている」機器ほど、誰も最新の状態を知らないことが多い。把握していない機器は、更新されない機器です。棚卸しの考え方は セキュリティの棚卸しチェックリスト にまとめています。

2

悪用が確認された脆弱性を最優先で塞ぐ期限を決める

ベンダーの脆弱性情報に加えて、実際に悪用が確認された脆弱性の一覧(CISA KEV)を追います。KEVに載った脆弱性は「いつか狙われるかもしれない」ではなく「すでに狙われている」ものです。深刻度の数字だけで順番を決めない考え方は CVSS・EPSS・KEVで優先順位を決める、実際の対応手順は 脆弱性対応の実務手順 を参照してください。

3

更新しただけで終わらせない——認証情報も入れ替える

脆弱性を突かれた可能性がある機器では、パッチを当てても、それ以前に盗まれた認証情報は有効なままです。その機器に保存されていた、または経由したアカウントのパスワード・証明書・鍵を入れ替え、身に覚えのないアカウントや設定変更がないかを確認します。「塞いだ」と「追い出した」は別の作業です。

4

保守・委託先のアカウントに「何でも読める」権限を持たせない

デジタル庁の事案で大量のファイルへのアクセスに使われたのは保守運用担当者のアカウントでした。同庁の発表はこのアカウントの権限範囲には触れていませんが、一般に保守用のアカウントは、作業の都合で広い権限を持たされがちです。必要な範囲だけに絞る・使う時だけ有効にする・接続元を限定する・多要素認証を必須にする——入口を破られても、1つのアカウントで届く範囲が狭ければ被害は小さく済みます。保守・委託先の経路が狙われる構図は、委託事業者のリモート保守用VPN機器が入口になった 大阪急性期・総合医療センターの事案(2022) でも調査委員会が指摘しています。

5

「普段と違う量のアクセス」に気づける状態にする

デジタル庁が異常に気づいたきっかけは大量のファイルへのアクセスでした。侵入そのものは防げなかったものの、検知が働いたから範囲を確定し、遮断できたとも言えます。ファイルサーバーやクラウドストレージで、短時間の大量ダウンロード・深夜の一括アクセス・普段使わないアカウントの利用を通知する設定は、高価な製品がなくても始められます。検知の考え方は IoA(攻撃の兆候)EDR の解説も参考になります。

6

その機器を持ち続けるかを判断する

更新を追い続ける人も予算もないなら、その機器を置き続けること自体がリスクです。代わりの方法(インターネットに入口を出さない接続方式や、事業者が更新を担うサービスへの移行)は、それ自体が万能ではありませんが、「更新の責任を誰が負うか」を明確にできる点で検討する価値があります。

連絡を受ける可能性がある職員・委託先の方へ

「自分の名前と所属を知っている相手」でも、本物の根拠にはならない

漏えいした可能性がある情報の中心は氏名とメールアドレスです。これは、特定の相手を狙ったなりすましメール(フィッシング)の宛先リストとして使われうる組み合わせです。デジタル庁も、同庁や関係機関を装った不審なメール・電話・SMSへの注意を呼びかけ、身に覚えのない連絡のリンクや添付ファイルを開かないこと、認証情報やクレジットカード情報を入力しないことを求めています。

確認したいときは、届いた連絡に書かれた番号やリンクではなく、デジタル庁の公式サイトに自分でアクセスして窓口を確かめてください。電話番号も約9.4万件が対象に含まれているため、電話での「確認」を装う手口にも同じ原則が当てはまります。

当サイトの視点:この事案で真似すべきなのは「気づけたこと」

直前に公表されたさくらインターネットの調査結果では、販売管理システムへの不正アクセスが約3年間続いていたことが明らかになりました(レンタルサーバーが不正アクセスされたとき、利用者は何をすべきか)。対照的に、デジタル庁の事案は大量のファイルアクセスという「量の異常」で検知されています。侵入そのものは防げていないので、手放しで評価できる話ではありません。それでも、入口を完璧に守ることは誰にもできない以上、差がつくのは「入られた後にどれだけ早く気づけるか」です。

一方で、検知(6月25日)から公表(9月11日)までは約2か月半あり、同庁の発表はその間の経緯に触れていません。影響範囲の確定に時間がかかること自体は珍しくありません。ただ対象者の側から見れば、自分の連絡先が第三者の手に渡った可能性を、数か月後に知ることになります。だから連絡を待つだけでなく、なりすましへの警戒は今日から始めるのが合理的です。

出典(公開記録)

本記事の事実関係は、以下の公開情報にもとづきます。公表されていない製品名・侵入経路の詳細は推測していません。

  • デジタル庁「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」(2026年9月11日公表) — digital.go.jp
  • 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」統計編「ランサムウェア感染経路」(有効回答92件のうちVPN機器61件、リモートデスクトップ19件。過去5年累計485件のうちVPN機器293件) — npa.go.jp
  • 各種報道(INTERNET Watch/ITmedia NEWS/時事通信、2026年9月11日) — いずれも上記公式発表にもとづく報道

更新履歴

2026-09-11:初版。デジタル庁の9月11日の公表内容と、警察庁の令和7年統計にもとづく。続報が出た時点で更新します。

次に読む

よくある質問

Qデジタル庁の不正アクセスでは、何が漏えいした可能性があるのですか?
A

デジタル庁の2026年9月11日の発表によれば、政府共通の業務環境「ガバメントソリューションサービス(GSS)」を利用する各府省庁等の職員と、その業務に携わった方々の個人情報、合計約24.6万件です。内訳は職員・公務員等が約18.9万件、業務に携わった事業者・個人が約5.7万件。項目は氏名約23.6万件、メールアドレス約23.1万件、電話番号約9.4万件、住所約0.1万件などで、マイナンバー、金融機関口座情報、年金番号等は含まれていないとされています。同庁は一般の方の個人情報は含まれていないことを確認したと説明しています。

Q原因は何ですか?
A

同庁は、第三者がネットワーク接続機器(VPN)の脆弱性を利用してシステムに侵入したと公表しています。検知のきっかけは、保守運用担当者のアカウントを利用してサーバ上の大量のファイルへのアクセスが行われたことでした。VPN機器の製品名や脆弱性の識別番号(CVE)は公表されていません。当サイトは公表されていない製品名や経路を推測しません。

Q対象になっているかどうかは、どうすれば分かりますか?
A

デジタル庁は、対象となる方を特定したうえで順次、個別に連絡するとしています。専用の問い合わせ窓口も設置されています。自分から確認する場合は、届いたメールのリンクではなく、デジタル庁の公式サイトに自分でアクセスして窓口を確認してください。

Q対象者は何に気をつければよいですか?
A

同庁は、デジタル庁や関係機関を装った不審なメール、電話、SMSに注意し、身に覚えのない連絡のリンクや添付ファイルを開かないこと、パスワードなどの認証情報やクレジットカード情報を入力しないことを呼びかけています。漏えいした可能性があるのは氏名とメールアドレスが中心で、これは標的型のなりすましメールの宛先リストとして使われうる組み合わせです。『所属と名前を正しく知っている相手からの連絡』でも、それだけでは本物の根拠になりません。

QVPN機器を使っている組織は、まず何をすべきですか?
A

最初にやるのは棚卸しです。自組織にどのVPN機器・リモートアクセス機器があり、どの型番・どのバージョンで、誰が更新の責任を持っているかを一覧にします。そのうえで、ベンダーの脆弱性情報と、悪用が確認された脆弱性の一覧(CISA KEV)を追い、該当があれば最優先で更新します。脆弱性を突かれた可能性がある機器では、更新だけで終わらせず、その機器に保存された、または経由した認証情報も入れ替えてください。